右翼政権の思惑が完全に実現した世界

今日も学校に行くのが憂鬱だった。
天皇陛下は生まれたときから天皇をしなくてはならない。かわいそう」と作文で書いたら、国語の先生に殴られた。
先生は「天皇は現人神なのだから、苦痛なんて感じないんです」と言っていた。
無茶苦茶じゃないか。そんなことないだろう。どう見たって普通の人間だ、と思ったけどそれを言うとさらに殴られるので言わないでおいた。
国語の先生に怒られていると、担任の先生が見つけて連れ出してくれた。助かった。
「おまえは馬鹿だなあ。とりあえず天皇は偉いって書いとけばいいんだよ」
うーん、そういうことでいいのか。
嘘つかないといけないのか。

休み時間には「おまえなんか非国民だ」と言っていじめられた。
よくわからないけど、天皇を人間として考えると非国民になるらしい。
天皇陛下万歳」な人たちよりも僕のほうが天皇を好きなのは間違いないのにな。
天皇はおとなしくてかわいい。ヤギみたいだ。
この人が本当に国家元首なのだろうかと思う。
天皇家は男性の遺伝子を伝えるのが重要なので、奥さんは比較的自由に決定できる。
代々「国の中で一番可愛い女の子」を奥さんにしてきただろう。
つまり遺伝子における「かわいい」要素がどんどん蓄積されてきたはずなのだ。
これは必然だと思うんだけど、男系の王族は年代を経るに従ってどんどん女性的になる。
男性要素は強化されないので女性要素が強まるばかりなのだ。
そんなことを言うとまた粛清されるので言わないでおくけど。

学校に密かに日本刀を持ち込んでいる奴がいるから危険だ。
「非国民を殺す」のは犯罪にならないので、殺されてしまう可能性がある。
先月も「非国民」の上級生が捕まって殺された。
掃除のときに天皇の写真を落として割ってしまったらしい。
各クラスの黒板の上には必ず天皇の写真が飾られている。

ただ、「写真を落として割ってしまった」のも本当かどうかはわからない。
罪のない人に罪をかぶせて殺してしまうことがよくあるからだ。

祖父の家の近くに天皇陵がある。まわりが公園になっているから子供の頃から時々遊んでいた。
関係ないけど僕のおじいさんは小柄で白髪で人当たりがよくて天皇によく似ている。
実はこの場所は本当に天皇陵がどうかは確認されていない。
明治時代に天皇陵って認定されたみたいだけど、その後の周辺的な歴史的発見や調査技術の進歩があったにも関わらず、
「本当に天皇陵なのか」「本当は誰の墓なのか」ということを発掘調査することは認められていない。
調査自体が天皇に対する不敬罪になってしまうからだ。
天皇家に関しては一回決めたことはそれが間違いであっても延々と守り続けられる結果になる。

犯罪調査も同じで「不敬罪」の正当性を調査されることはない。
なぜなら真実を見極める作業自体が不敬罪にあたるから。
なので、「天皇に対して害意がある」と他人を告げ口すると告げ口された人は間違いなく捕まって罰を受けることになる。
みんなが人に嫌われることを極端に恐れている。
誰かにちょっとでも嫌われたなら、告げ口されて殺されてしまうかもしれないからだ。
クラスのほとんどが仲良しのフリをしている。
現在の天皇のDNAが墳墓に眠っている初期の天皇とちゃんと繋がっているかどうかも調査されない。
なぜなら「万世一系である」ということがもう決まってしまっているから。
それを否定する可能性のある研究が認められるはずがない。
真実よりも幻想のほうが重要なのだ。

世の中に触れてはいけない暗黒部分がある。
それは教科書の黒塗りのところを見ればわかる。
黒く塗られてあっても文字のインクの色が微妙に残っているからよく目を凝らせば読めるのだ。
日本軍が第二次世界大戦中に虐殺を行ったって記述は黒く塗ってある。
古事記の分析で「祖先は朝鮮半島からきたのであろう」って書いてあるところも黒く塗られている。

言ってはいけないことに気をつけていないとついつい口に出してしまって、粛清される人もいる。
道を歩いているときに突然車に撥ねられるようなものなので、
そういう暗黒部分には常に気をつけていなくてはいけない。

でも僕は誰かに告げ口されることをそんなには恐れていない。
なぜならもう戦争が始まっているからだ。
いつ徴兵されて戦場に行くかわからない。
戦争で死ぬのも告げ口で死ぬのもたいして変わらない。
九州地方は徹底的に空襲されて、北部の都市は焼け野原になってしまった。
たぶん100万人くらいはもう死んでいるだろう。
いや、政府は自分に都合のいい発表しかしないので本当はもっと死んでいるのかもしれない。
韓国南部の多くの都市も灰燼に帰している。向こうの被害も同じくらいあるだろう。
こちらの被害ももちろん甚大だが、この分だと韓国については勝利できるかもしれない。
しかし、その後には中国が控えている。
韓国と戦争を始めた時点で日本を敵国として宣言されてしまっている。
中国国内の日本への敵対感情も強いので、いずれ戦わないわけにはいかない。
世界第二位の経済力を誇る中国と正面から渡り合うことができるかどうか。
歴史上の過去の戦いとは違って現在の中国は体力をつけてきている。
いくら戦術面で勝利しても戦略的には勝つことが難しいのは明らかだ。
たぶん今回は負けることになるだろう。

でも相変わらず「神の国」で「勝利することが既定だから負けることはない」
だから「勝つかどうか」を考えるのは無意味であるらしい。
「負けるかもしれない」と口走っただけで粛清される。
「勝利する」なんていったい誰が決めたのだろうか。
あの、人のよさそうな天皇ではないだろう。
僕は彼のことが好きだからよくわかるけど、そんなに傲慢で一方的なことを考える人じゃない。
オタクで学者肌の彼は意志が強くないから、誰かにうまく操られちゃっているのだ。

第二次世界大戦でも同じことを言っていたんだけど…。
何度でも負けないと学習しない国民なのかな?
はじめる前から決まっている結果なんてない。
建前のほうが真実であるなんてことはありえない。
この分でいくと、たぶん万世一系というのも怪しいだろう。

戦争で負けたら天皇が責任を取らされるに決まっている。
なんとかしてそんな地獄から彼を助け出す方法はないものかな。

学校から帰るときに先生が、「おい、ちょっと職員室まで来い」と言ったのでついて行ってみると、
「おまえに赤紙が来ている」
うわ、学徒出陣早いなあ。もうそんなに戦局が悪化してるのか。
これは韓国にも勝てないかもな。
普段は名誉なことだからと喜ぶ場面だが、僕のことを気遣ってくれているのか担任の表情は暗い。

「どうもお前のシューティングゲームの能力が買われたらしいな」

しまった。あまり高得点を取るんじゃなかったな。学校でゲームやらせるなんておかしいと思った。
家でFPSやりまくってるし、面白いからつい熱中してしまったけどあの授業はやはりそういう意味だったのか。
でも本気は出してなかったはずなんだけど、本気を出していないことを見抜かれたかな?
「死ぬのはつまらん。生きて帰ってくることを第一目標にするんだな」
先生、それ言っちゃうと捕まるよ。
天皇陛下のために死んで来いっていうのが教師の役目でしょうが。
まわりにいる人は聞こえないフリをしているけど。

「ん、オレの発言を心配するな」といって先生は笑った。
「オレにも赤紙が来ている。まあお前とは配属部隊が違うだろうけどな」

えー、先生って奥さんと子供いるのでは…。
「国の一大事だからまあしかたないな。オレも死なないように気をつけるよ」
この戦局では生き延びるほうが難しい。兵役のある韓国のほうが正規軍が消耗した後の総力戦での訓練度は圧倒的に高い。
まず間違いなく死にますよ?

「うーん、まあこの時代に生まれたのが不幸だと思ってあきらめるよ。オレが死んでからはきっといい世の中になるだろう」