『経済的価値の追求』と『製品の安全性』はどっちが大事かな?

中国産の即席ラーメンを食べた学生2名が死亡

こういうニュースを見る度に思うことは「なぜ消費者の安全に気を配らないのか」ということです。
もしも日本でこういう問題を発生させたメーカーがあるならば、
間違いなく消費者から糾弾されて購入者が激減して、メーカーが大損害を受けてしまうでしょう。
つまり発覚した場合のコストが大きいので、消費者の身体に害を及ぼすような製品を作ることはしないのです。

ところが中国ではこの公式が当てはまらないんです。
「安価な(危険な)製品を作る利益>発覚した場合のコスト」なのです。

この価値基準が企業経営者の中で醸成されていないとこの問題は発生しない。
いくつか要因を想像してみます。

1、お金というものの価値が法外に高く見積もられている
少しでも多くお金を儲けることがとてつもなく大きな意味を持っているために、
消費者の人命や発覚のリスクなどが消し飛んでしまっている。

2、経営者本人にとって自分の人生の価値が低く見積もられている
経営で失敗して会社に首を切られたなら死んでしまえばいい、と思っているのかもしれない。
人生そのものが一種の賭けだと思っている。

3、発覚するケースが少ない
中国当局の人的リソースや捜査方針、捜査能力の問題であまり発覚するケースが少ないのかもしれない。
ほとんどは海外で問題が発生して発覚しています。
中国国内で問題が発覚したというニュースは聞かないので、そもそも問題のあるメーカーを取り締まろうという動きがあまり活発ではない。(国内製品を取り締まるどころか、むしろ日本の製品の粗探しをしたりしている)
経済成長が急すぎて、取り締まる側の体制が整っていない。
あるいは経済成長が最大目標であって、メーカーの不正は見過ごしている。
最近問題になっているディズニーキャラクターのコピーに関しても一切取り締まる話を聞かないので、たぶん中国の国内企業に対するコントロールというのは正常に機能していない。
共産政権の崩壊によって国家の主体が消失し、企業権力こそが最大最高の権力になってしまっている。
あらゆる中国企業は「企業であること」そのものによって治外法権を得ている。
(放置すると「中国製品は輸入しない」という企業や国が出てくる可能性があるので、
  早く取り締まったほうが長期的には中国本人のためだとは思うのですけどね)

4、発覚しても誰も困らない
たとえ発覚しても会社自体の名前が変わってしまったり、物理的に移転できる体制があるのかもしれない。
中国国内での取り締まりがないのであれば犯罪にはならないので、責任を追求されず、誰も捕まらないのかも。
警察力が弱く、企業の流動性が高ければ発覚を恐れる必要はない。

5、年功序列型ではない
年功序列型の社会だと長期間に渡って一つの会社に勤めるほうが有利なので、
簡単に会社を作ったりつぶしたりするのは不利です。
「会社」というものの価値が軽い。会社を構成する人の平均年齢が低い。
全体的な企業文化として「長期に渡って営業している」ということが信頼に結びついていない能性がある。

6、「フェアであること」の価値が低い
まあこれに関しては日本やアメリカも他人のことは言えません。


うーん、いろいろ考えてみるに、3と4が一番の原因じゃないかな。
発覚してもリスクがないのなら悪事を行う人が減らないのは当然です。

一番いいのは政府がちゃんと取り締まる機関を作って、不正を行っている企業を断罪することです。
そういう機関を作るように世界的に圧力をかけるべきなのかもしれない。

もしも政府が取り締まることができないのであれば、中国企業による企業連盟みたいなもの(経団連みたいなものですね)を作って、企業を統治していくしかないんじゃないか。

・加入企業間で相互に製品のクオリティをチェックする
・連盟に加入していない企業とは取引しない

そういうことをしていかないと、いつまで経っても犯罪的に品質の低い製品を作る企業が現れて
中国製品の評判を世界的に下げてしまう可能性がある。
現状では世界に向かって全力でマイナスキャンペーンを行っているようなもの。
「中国製品を買わないでください」と大声で叫んでいるのと一緒です。
中国で作られた、というだけで安く買い叩かれる下地を作っている。

粗製濫造を行っている企業やコピー製品を製造している企業は当面放置するとしても、
少なくとも人間の健康に害がある製品を供給するような企業だけはなんとかして撲滅するべきじゃないか。

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理想的には中国国内での「企業こそが最高であり、企業にはなんでも許される」といった風潮を止める必要がある。
でもさ、ある程度経済が成長しないと反省が起こらないのではないか。
今すぐに中国に変われって言っても無理に決まっている。
どんなに頑張ってもあと10年はかかるでしょう。
でも経済を止めるわけにはいかない。
コストや様々な事情から、信頼のおけない中国と取引せざるをえない人はどうすればいいのかな?

突然の資本爆発(工業化爆発)が発生する国であればどこでも似たようなことが発生するんです。
イギリスだって産業革命当時は、かなりひどい労働環境が発生していたし、
日本だってコピー製品を作りまくっていたこともあるし、公害に苦しんでいた時期もある。
ちょっと前まで海外にいけば日本の旅行客はマナーを知らないと言って煙たがられていたんです。
ほとんどの事象は工業化が一気に進展する時期にはどの国でも体験することなんですよ。

今回の問題は「工業化が一気に進展する」というタイミングに入ったのが世界一の人口を抱える中国だから大問題になっている。
今までの歴史的な工業化爆発の経験から言って、本当は各国に対処できる体制が整っていてもおかしくないんです。

爆発の発生している国からの輸入品を信頼しないこと。
品物が到着したら毎回、常にチェックし続けることです。
異変があれば、会社全体に警報を発すること。
問題が大きいようであれば業界全体に警報を出したほうがいいケースもあるでしょう。

相手のリテラシーが低いことは明白ですから、付き合う側がそのつもりで用意しないと駄目ですね。
ラーメンを輸入するなら輸入業者がその品質を定期的に原材料、成分レベルまで分析し、確認すること。
ノートパソコン用の電池を輸入するなら、その原料までを毎回分析する。
薬を作るなら常に輸入原料を素材レベルまで分析するしかない。

…っと書いているうちにどこかで読んだと思ったら「中国的工場カイゼン記」に書いてあることと同じことでしたね。

低コストの代償は完璧なチェック体制です。
事故を防げるだけの受け入れ検査体制を用意できないのであれば中国製品を使用するべきではないんです。
中国製品の品質が一定的に保証されてるなんて夢にも思ってはいけません。
相手が保証してくれない以上は自分で保証するしかないのです。

中国的工場カイゼン記 (日経ものづくりの本)

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