密航後に生まれた子供をフィリピンに送還しろ、という人へ

(という人が友達にいるので、その人に対しての反論です)

2chで繰り広げられているような言説は、
村上春樹が指摘しているように学生運動とよく似ていると思います。
あまりにもその中に入り込んでしまうと、
学生運動そのものが自己目的化してしまい、
当初の目的がなんなのかわからなくなってしまうのですよ。

それと気をつけないといけないのは外国人を排斥したいという心情は
経済的に追い詰められた国では必ず発生するものだということです。
多くの人がそれに影響されますし、自分の心理についても、気をつけていないと影響されることがあります。

結果として

多くの外国人が投獄されたり殺されたりします。

第二次大戦中のユダヤ人の大虐殺ですが、ヒトラー個人の責任ではなく、
ユダヤ人を排斥すべきだ」という論理が、多くの人々の心を捉えたから成立したものです。

苦しい状況にあるときに、その責任を誰かになすりつけたくなるものなのです。

その心の動きそのものは人間としては自然ですが、
結果として殺される人間としてはたまったものではありません。

常にそういった心の動きには気をつけて、影響を受けないようにする必要がある

というのがまず一点。

もう一つは、

「システムの動きはほっておくとときに人を殺す」
ということです。
これはシステムそのものの設計を考えたり、メンテナンスすることである程度は防ぐことはできますが、
本質的に「人間の手を一切かけなくてよい」というシステムは、社会的なシステムでは存在しません。

システムの不都合となる一つ一つの問題については、そのとき、その場にいた人間が毎回考える必要があります。
現代はまだそういう世界です。

そういうことを考えたときに、
日本で生まれて日本で育った中学生を、まったく環境の異なる国に追いやるという判断は、非常に難しいと思います。

いつ強制送還されてもおかしくない状況
そんな不安定な状況で、しかも解体業という危険で、
給料の少ない仕事に就かなくてはいけなかった父。

それでも故国には帰りたくない。

つまり故国フィリピンの状況はもっとずっと厳しいのです。

日本の中学生がフィリピンに行ったとして、満足な教育を受けることはほぼ不可能でしょう。
いわば「状況はすでに発生してしまった」のです

密航直後に全員をフィリピンに帰すことは妥当だと思いますが、
すでに生まれてしまった子供までを強制的に送還することは適切ではありません。
彼女の未来を奪うことになる。

もしも日本で生まれたものについて、
在住することを認めない場合、我々の血統をすべて詳しく調べる必要があることになります。
少しでも外国の血統が入っていた場合には、即刻送還する必要があることになる。
(現行の法律的には確かちょっと違いますが)

そういう血統狩りのようなことは、誰も望んでいないのです。

一部の外国人排斥好きの人以外はね

もともと日本は純粋な血統が存在するわけではありません。
縄文時代以前に住んでいたアイヌ系の民族と、弥生時代朝鮮半島からやってきた民族との混血です。
現在ではあきらかに後者の天皇家の属する血統のほうが多数です。
血統主義自体がかなり幻想の産物だということです。

そのような曖昧な存在である「血統」によって彼女の、そして我々の人生が決定されるべきではないのです。