ファミリーデパートについて

かつて由利本荘市に「ファミリー」というデパートがあった。

赤を基調としたロゴで、その四角い広告塔は地域の王であることを示していた。
周辺に高い建物があまりないので、3階程度の高さしかないそのビルは
よく目立っていて、遠くからでもそれとわかった。
多くの人々が毎日買い物に行き、常に人で溢れていた。
雪の日でさえ3つもある駐車場は満杯だった。

食品売り場や洋品店、書店、電気屋おもちゃ屋、レストランを併設しており、
生活に必要なものすべてを購入することができた。

「青い鳥」というレストランが入っていて、そこでよくラーメンやスパゲティを食べた。
地域に他には気軽に入れるレストランといったものはあまりなく、洋食を手軽に食べられる場所として貴重だった。
すごくうまい、というわけではないが、家族向けのレストランとして手堅い味だったと思う。
五目ラーメンは他のメニューに比べて印象の残る味付けで、何度も食べた記憶がある。
その他に近くにいくつかレストランがあったが、「グリルマイン」は明らかにレベルが高く、おじさん向けの飲み屋的な位置づけだったし、
「カインド」は高級志向で敷居が高く(と自分は思っていた)子供が入れるような感じではなかった。

超人ロック」をはじめて買ったのはファミリーの本屋だったと思う。
風の谷のナウシカ」の映画が公開されることについての雑誌の特集(アニメージュか?)が並んでいたのが記憶にある。

たぶんしばらくしてすぐ隣に「ジャスコ」が作られた。
ジャスコ」は「ファミリー」にほぼ近い構成なのだが、
床面積、品揃えとしてはファミリーのほうが勝っていた。
この2つのデパートは地域に覇を競っていた。
いい勝負だったと思う。

ジャスコ」のほうがレイアウト的にソフトクリームが買いやすかったので、
自分は帰省した際には何度かジャスコにソフトクリームを食べに行った。


この2つのデパートができたせいで近隣の小さな商店は軒並みつぶれた。
以前は「大町」という通りがメインストリートだったはずだが、
ほぼシャッターストリートになった。駅前にあった店もいくつかが閉店した。

自分が上京してから後「ファミリー」は「ジョイフルシティ」と名前を変えて営業していたのだが、
昨年の10月にグループ全体を統括していた企業が倒産したため、店舗が閉鎖された。

この閉鎖の直接の原因は、
近隣に郊外型アウトレットモールと巨大なイオンスーパーセンターが作られたためだ。
これらの店舗は規模、利便性、品揃え、床面積で「ジョイフルシティ」を圧倒していた。

それ以前に食品など生活用品のみに特化したスーパー「つるまい」という地元のスーパーチェーンが存在していたのだが、
起業者が引退するにあたり、チェーンを売却することになった。
このチェーンを丸ごと購入したのがイオングループだった。
それによってそれらの店舗はすべて「マックスバリュ」に転換された。
地図上に各店舗の点を打ってみればわかるが、この時点でファミリー(ジョイフルシティ)は包囲されたも同然だった。

本荘市の「ジャスコ」では長年「ファミリー」の後塵を拝してきたのだが、
ここで資本の力に物を言わせて大きく逆転してきたと言ってよい。

このゲームでは勝ったものだけがすべてを手に入れ、負けた者は去ることしかできないようだ。
これによって由利本荘市の大型小売店舗に関しては、戦いに終止符が打たれたと考えてよい。
全面的にイオングループの軍門に下ることになった。

ただし、これでイオングループが安泰がというとそういうわけでもない。
秋田県は順調にその人口を減らしており、地域最大のプレイヤーなら否応なしに影響を受ける。
人口の減少が利益の減少に結びつくに決まっているからだ。

そもそもがパイを増やさないことにはどうしようもないとは思う。
イオングループが拡張を続けても、いずれ限界がくる。
狭い場所をグループ企業同士で奪い合うのでは、自分で自分の足を食べることになってしまう。

地域経済そのものを豊かにする方策が必要。
それはこれまでのような「道路や建築物や橋を作ればよい」といったその場しのぎのアイデアではない。
道路は確かに瞬間的には雇用を生み出すが、長期的に地域を潤すことはない。
恒久的に地域に存続し続ける産業が必要なんだと思う。