会津高原「サンデーファーム」
連休に旅行に行ってみた。
じゃらんで調べてみると福島の会津高原に「サンデーファーム」というペンションがある。
サンデーファーム。
日本語にすると「日曜日の農場」
想像してみる。
農業の片手間に宿泊業をやっている。
農家をちょっと改造したみたいなくたびれた家に寝泊りする。
地名に「高原」と付いていることもあるし、草原が広がっていて、
近くにはきっと牛とか馬とかがいるに違いない。
田舎の素朴な手料理が食べれるのだろう。
そんな淡い期待は見事に裏切られました。
えとね、行ってみるとそこはスキー場の近くにあるペンション村でした。
80年代くらいにペンションブームというのがあって、
日本中にペンションが大量に作られたのですが、
ここのそういうものの一つだったようです。
まわりには10軒くらいのペンションが立ち並んでます。
経営というか経済というか何かの意図を感じますね。
たぶん地元の不動産屋が企画して経営者を呼び込んだのでしょう。
ペンション村全体が少し奥まった場所にあるので、
森の中にあるみたいな感じで、ホラーっぽい。
廃村みたいな静かな空気がある。
そもそも草原とかはまったくないです。
スキー場以外には平地はなくて、森ばかりですね。
ほとんど原生林。下生えがすごいので人間が踏み入ることはできない森です。
「高原≠草原」でした。
近くで畜産もされている雰囲気ないです。
夏はシーズンオフなので、ぜんぜん人がいないです。
道を歩いている人に会うことがない。
80年代に建てられたであろう建物は、
誰かに「全部廃墟ですよ」と言われても納得してしまいそうになる。
かろうじてまだ生きているとわかるのは建物の前に
それほど汚れていない車が止まっているから。
車が止まっていなかったら廃屋だと思ってしまうでしょう。
数キロ以内には昼間に食事をできる場所は一箇所しかないです。
他にもレストランみたいな施設はあるけど営業してません。
営業しているのは会津アストリアホテルというスキー場のそばにある古めのホテルなのですが、
隣には500円で温泉に入れる新しい設備もある。
おじいさんとおばあさんの団体客がバスで来ていました。
訛りからして福島周辺の人たちでしょう。
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サンデーファームには漫画があります。
それもちょっと懐かしい漫画ばかりです。
たぶん多くの家では捨てられているであろう古くなった少女漫画系の雑誌もきれいに並べてある。
これはきっとスキーに来た若者のために用意されたのだとは思いますが、
それにしてはラインナップに統一感がある。
ちゃんと読み手が自分の意思で選んで買った本です。
「お客さんに読ませてあげよう」という商売っ気のある意図が感じられない。
これはたぶんペンションのオーナーの趣味でしょう。
夫婦で経営しているぽいのですが、
割合的に女性向けの漫画が多いことから、きっと奥さんの趣味だと思います。
ペンションのそこかしこにあるファンシーな装飾もきっと奥さんによるものでしょう。
トムクランシーの「サンデーファーム」ではなくて、くらもちふさこの「サンデーファーム」なのです。
横文字であるからと言って英米圏の文化なのではなく、あくまでも少女漫画の世界なのです。
でも
ですね、
「サンデーファーム」って
そういうファンシーなペンションの名前としてはちょっと変じゃないですか?
もっとこう甘い名前でもいいはずです。
「夢見る象さん」とか「森の気まぐれキッチン」とかね。
実際にまわりのペンションはそういう名前なんです。
なぜに「サンデーファーム」なんでしょうか。
(ここから先はかなり想像が入ってますが)
それはたぶん夫の人の趣味だと思います。
サンデーファームに電話をかけると、
男の人がものすごくぶっきらぼうな応対をしてくれるんですが、
それは硬質なものが好きな夫の人の性質を現しているんじゃないかな。
ペンションのオーナーというのは脱サラして都会から来た人が多いのです。
たぶん彼はエンジニアだったんです。
だから、人当たりが堅いし、ルールに対してとても厳格なのです。
自分がオーナーになるペンションの名前に「猫の気まぐれ」みたいな軟派で意味不明な名前をつけることは
技術者の心意気としてどうしても許せなかったのでしょう。
奥さんや不動産業者には反対されましたが、この一点だけは彼は主張を曲げなかった。
だからペンションの看板もとても小さいのです。
意地っ張りだけど謙虚なのです。
彼は最後まで「日曜日の農場の平穏さ」をイメージしようと主張し続けました。
そういった夫婦の葛藤こそがサンデーファームの真髄なのです。
その葛藤が「可能な限り低価格で、来た人に自分たちのできる限りのおいしいものを食べてもらう」
というコンセプトを実現可能にしているのです。
サンデーファームって一泊6000円とかです。
二人で泊まっても1万2000円しかしません。
ところがですね、夜の料理は信じられないくらいにおいしいです。
都会であれば料理だけで5000円くらいは取られてしまうレベルです。
田舎なので素材は新鮮であるというアドバンテージはあるにせよ、
これだけのものをこの場所で提供できるということが驚きです。
前にも書いたようにまわりはほぼ原生林で、ペンション以外にはほとんど人が住んでいないような場所なのです。
どうやって材料を調達しているのか謎です。
なにかの魔法があるのかもしれない。
サンデーファームをもしも完璧に味わいたい、夕食を最高の感動にしたいというなら
駅から歩いていくといいと思います。
駅からは15キロくらいありますが、分岐が少なく道が単純なので間違うことはないでしょう。
(気持ち的に)遭難寸前のところで辿り着いて、料理を味わうことができたなら、忘れられないものになることは請け合いです。
自分は台風の日に自転車で行ったのですが、いくら台風といえど自転車にとって15キロというのは
「死にそう」というほど大変な距離ではありません。
空腹になるための運動量としても十分ではありませんでした。
(本当に空腹ならもっともっと料理はうまく感じられるのですが・・・)
自転車で行くなら晴れの日に2つくらい手前の駅で電車を降りるほうがいいでしょう。
ケーキのソースがちょっと軽いとか、コーヒーが深煎りすぎるとか
ごはんが電気釜で炊かれていてちょっともっさりしているという問題はありますが、
そういう細かな問題は全体のバラエティや質や手間の量で十分にカバーされていると思います。
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でも、この値段でこの料理を食べられるのってちょっと問題ではないでしょうか?
普通のホテルではとても真似できないんじゃないか。
田舎だからできることなのかな?
大人数は収容できないから団体客はホテルに行くしかないか。
安価においしいものが食べられるというのは、少人数の旅行者のささやかな楽しみですね。
あと、こういう一点突破型のペンションはインターネットによって救われたんじゃないか。
ネットがなかったら夏場の営業はきつかったかもしれない。
そう考えると、これからペンションというのは2度目のブームがあるかもしれないですね。
個人的には「ペンション」という枠をもう少し外れた内容があってもいい。
別にファンシーじゃなくてもいいし、洋食にこだわることはない。
型に合わせることはないし、もっとオーナーの個人的な性向みたいのを前面に押し出していい。
現状は「80年代のペンションブームのときに存在したペンションの形」をかなり引きずっている。
時代はだんだん変わっていくのだから、古いスタイルは定期的に見直すことも必要だと思います。
千葉にある「シーキャビン」というペンション(?)はその辺はかなり自由な感じがありますね。
伝統から離れたペンションが出てきている。
ペンションという形態が今後どのように発展していくかはわかりませんが、
両方に泊まって比べてみると時代の変化がわかるんじゃないか、という気がします。